契約書レビューはAIで本当に大丈夫?弁護士によるチェックの必要性を解説

契約書の作成やレビュー業務にAI(人工知能)を活用する動きが加速しています。AIは確かに、迅速かつ低コストで契約書の形式的なチェックを行う点で魅力的です。しかし、その利便性の裏に、見過ごされがちな「致命的な限界」が存在することをご存知でしょうか? AIレビューへの過信は、将来、予期せぬ経営リスクを招く可能性があります。

本記事では、AI契約書レビューサービスの実態とその限界、そして、なぜ最終的な判断には依然として専門家である弁護士の目が必要なのか、特に法務アウトソーシング(顧問契約)を通じた弁護士サポートの具体的なメリットについて、専門家の視点から詳しく解説します。

1.契約書レビューにAIを使う企業が増えている背景

AI契約書レビューサービスの仕組みとは?

AI契約書レビューサービスは、自然言語処理や機械学習といった技術を駆使し、契約書に含まれる特定のキーワードや条文パターンを自動で解析します。これにより、一般的なリスクが潜む可能性のある箇所や、契約類型によっては標準的でない表現、定義の漏れなどを瞬時に指摘します。サービスによっては、標準的なひな形との比較機能や、簡易的なリスクレベル判定機能が搭載されているものもあります。
日本では、たとえばリーガルフォース社の「LegalForce」やリセ社の「LeCHECK」、GVA TECH社の「OLGA」など、様々な企業が提供しています。サービスも徐々に進化している印象です。

導入が進む背景:コスト削減とスピード

特に法務部門を社内に持たない中小企業や、スタートアップ企業にとって、専門家に依頼するよりも安価で、かつスピーディーに対応できることから、AIレビューが選ばれる傾向があります。人材確保が難しい法務分野において、AIは魅力的な選択肢として注目を集めています

2.契約書のAIレビューには限界がある

しかしながら、契約書のAIレビューには以下のような限界があります。

①契約の背景や当事者の認識を踏まえた対応ができない

AIレビューでは、あくまで契約書自体から問題点等を認識するため、契約書に表れていない事項には対応できません。その結果、契約書に記載されている内容に問題がなくとも、当事者の意図と異なる内容になっている可能性があります。また、契約書に追加した方がよい条項については対応できないサービスもあります(あくまで契約書に記載されているものしか当否を判断せきません。)。

②業界特有のリスクや商慣習への対応不足

不動産、IT、医療、建設など、特定の業界には特有の契約構造、リスク、専門用語、長年の商慣習が存在します。AIは「一般的な契約書」のパターン学習には強くても、こうした業界固有の複雑な背景を理解し、それに応じたリスクを評価することは苦手です。また、契約相手との力関係や、それまでの交渉経緯といった「契約外の要素」もAIは考慮できません。

③文脈や法的解釈の深層を読み解けない

AIが分析できるのは、あくまでテキストデータとしての「形式的な文言」や過去のデータに基づく「統計的なリスク」です。しかし、契約書の真のリスクは、条文の文言だけでなく、その背背景、関連する法律、過去の判例、そして裁判所がどのように解釈するかの傾向(法的解釈のニュアンス)に潜んでいます。これらは、現在のAI技術では正確に評価することが困難です。

④AIレビューに頼りすぎるとトラブルに

AIで問題なしと判断された契約書をもとに契約締結した結果、後日重大なトラブルが発生し、裁判にまで発展することも充分考えられます。AIレビューはあくまで補助的手段であり、過信は禁物です。重要な契約であればあるほど、専門家によるダブルチェックが不可欠といえます。

3.弁護士による法務のアウトソーシングが選ばれる理由

AIの限界を補い、より確実なリスク管理を実現するために、多くの企業が弁護士によるサポート、特に継続的な顧問契約(法務アウトソーシング)を選択しています。

契約書だけではない、継続的・包括的な法的サポート

顧問契約を結ぶ最大のメリットの一つは、日々の契約書チェックにとどまらず、従業員の問題、取引先とのトラブル、新規事業の法的リスク検討、コンプライアンス体制の構築など、企業活動に伴う様々な法的課題について、いつでも気軽に相談でき、一貫したサポートを受けられる点です。これは、経営者が安心して事業に専念するための強力な支えとなります。

契約の目的や背景を踏まえた戦略的なチェック

弁護士は、単に契約書の文言の誤りやリスクを指摘するだけではありません。その契約が締結されるに至った背景、事業全体の目的、取引の全体像、相手方との関係性などをヒアリングし、将来起こりうるあらゆる問題を想定した上で、戦略的な視点からチェックを行います。これは、形式的なチェックしかできないAIには不可能な、専門家ならではの付加価値です。

企業の状況に合わせたオーダーメイドの対応

継続的な顧問契約を通じて、弁護士は企業の事業内容、経営方針、過去のトラブル事例などを深く理解していきます。これにより、画一的なレビューではなく、それぞれの企業の状況や価値観に合わせた、真に「使える」契約書の作成や修正、リスク判断に関するアドバイスが可能になります。

リスク回避・利益確保のための能動的な条項追加・修正

多くのAIレビューサービスは、既存の条文に対するリスク指摘が中心であり、自社にとって必要な条項が「不足している」ことを見抜いたり、状況に合わせて能動的に有利な条項を追加提案したりすることは困難です。弁護士であれば、契約交渉の状況やリスク分析に基づき、積極的に条項の追加・修正提案を行い、より安全で有利な契約締結を目指します

4.AIと弁護士の使い分けはどうするべきか?

AIレビューと弁護士によるチェックは、対立するものではなく、それぞれの特性を理解し、使い分けることが重要です。

AIレビューが有効なケース:

    • 大量の定型契約書(秘密保持契約、簡単な業務委託契約など)の一次スクリーニング
    • 社内で使用する契約書ひな形の基本的なチェック
    • 契約書管理の効率化(検索、期限管理など)

弁護士への相談が不可欠なケース

    • 新規取引や重要な取引先との契約
    • 取引金額が大きい、またはリスクが高いと想定される契約
    • 業界特有の知識が必要な契約(不動産、M&A、ライセンス契約、システム開発など)
    • 国際契約
    • 自社のひな形ではなく、相手方から提示された契約書
    • 契約内容について相手方と交渉が必要な場合
    • 過去にトラブルがあった、または紛争の可能性がある契約

原則として、リスクの度合いや契約の重要性が高いほど、弁護士による専門的なチェックが不可欠です。AIレビューの結果を参考にしつつ、最終的な判断は弁護士に仰ぐ、という併用が現実的かつ安全なアプローチと言えるでしょう。

5.まとめ|契約書チェックにはAI+法務アウトソーシングの併用が有効

AI契約書レビューは、契約業務の効率化に貢献する可能性を秘めたツールですが、決して万能ではありません。AIの限界を理解せず、その結果を鵜呑みにすることは、かえって企業を大きなリスクに晒すことになりかねません。
本当に信頼でき、かつ自社の実情に合った契約書レビュー体制を構築するためには、AIを「効率化のための補助ツール」と位置づけ、最終的な判断や重要契約については、経験豊富な弁護士の知見を活用することが不可欠です。
顧問弁護士との継続的な関係(法務アウトソーシング)は、初期コストは発生しますが、契約トラブルによる将来的な損害や訴訟リスクを未然に防ぐことを考えれば、長期的にはコスト削減と事業の安定に繋がる「賢い投資」と言えるでしょう。

6.法務の外部化をご検討中の企業様へ

法律事務所DeRTAでは、契約書レビュー・作成をはじめとする法務機能全般のアウトソーシング(顧問契約)サービスを、月額制にて提供しております。AIサービスではカバーしきれない、貴社固有の事業リスクや経営方針を踏まえた、オーダーメイドのリーガルチェック・アドバイスを通じて、経営判断を力強くサポートいたします。

当事務所の法務アウトソーシング(顧問契約)の特徴:

  • 迅速なレスポンス 原則として24時間以内に初回対応を行います。
  • 柔軟なコミュニケーション チャットツール(Slack, Chatworkなど)を活用し、スピーディーなご相談が可能です。
  • 契約書作成もカバー プランに応じた稼働時間内であれば、契約書や社内規程の新規作成も対応いたします。
  • 交渉・紛争対応の連携 プランによっては、内容証明郵便の送付などの交渉代理も顧問サービス内で対応。訴訟対応についても、顧問企業様向けの割引価格を適用いたします。

東京都港区を拠点としておりますが、オンライン会議システム等を活用し、全国の企業様からのご相談に対応可能です。まずはお気軽にお問い合わせください。

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黒澤真志のイメージ
代表弁護士
黒澤真志
2009年12月に弁護士登録(登録番号41044)。2019年4月に独立し、法律事務所DeRTA(デルタ)を設立。 会社の顧問業務から訴訟事件まで数多くの事件をこなし、東京地方裁判所の破産管財人や東京簡易裁判所の司法委員も担当している。著書に「Q&Aでわかる民事執行の実務」(日本法令)共著、「解雇事例をめぐる弁護士業務ガイド」(三協法規)共著、「新版ガイドブック弁護士報酬」(商事法務)共著、「新破産実務マニュアル」(全訂版)(ぎょうせい)共著、「遺言書 遺産分割協議書等条項例集」(新日本法規)共著等がある。
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